去年の夏は雲取山から

去年の夏は雲取山から奥秩父の山々を瑞垣山までテントで縦走した。4泊目の大弛小屋に泊まるまでひたすらずっと天気が悪くて毎日雷雨にやられてどこも真っ白だしかなり腐っていたのだけどその晩のラジオの天気予想はようやく晴れるということだったので、少しでもその時間を逃したくなくて、翌朝はもう4時半には歩き始めていた。これから向かう金峰山はなんといっても奥秩父の中で唯一森林限界を超える山で、景色がすごくて、しかもあの、岩で構成された天然の城のような瑞垣山がみえるらしいぞ、ということでなんとしてでも晴れてもらわなければ、もう5日も歩いているのに全く報われなくて,街でもそうなのに山でもかよ、みたいのは勘弁してもらいたい。なのでテントから上をみあげて星が光っているのを見たときはうわっと思ってすぐに撤収して歩き始めると、体がもうそれまでの体ではなくて、神経が研ぎ澄まされてすごい集中力で疲れも何も感じないままグングン前に進むことができた。森林限界を超えてようやく視界が開けて晴天の青い景色が広がると、オレは一歩一歩あるきながらあらゆる汚い言葉を発散しつづけた。バカとかアホとか死ねとかクソとかザケンナとかずーっと連呼しながら山をいじめるみたいに歩くというより踏んずけてやった。とうとう瑞垣山を見つけると、またクソとか死ねとか叫びながら中指を立てた。ザマーミロ!瑞垣山!おまえだけじゃない!その向こうにいる八ヶ岳もそうだ!こっちの山もこっちの山もザマーミロだ!クソザケンナ!山にいると自然がでっかくて自分という人間がちっぽけな存在に感じる、なんてクソクラエだ!おれはここにみえるどの山よりも体がでかくなっておまえらを支配している、踏んずけて見くだしている、王だ!そうだ王だよおれはザマーミロ!そんでその上で光ってる太陽の野郎!おまえだ一番悪いのは!おれは生まれてこのかたおまえに感謝したことなど一度たりともない!!

 

しばらく山頂にいてから下って富士見平小屋につくころにはすっかり体もちっちゃくなってあたたかな日差しにつつまれてのんびりと花畑を眺めていた。そこにはアサギマダラという青くてふわふわ飛ぶ小さなおんなのこみたいな蝶がたくさん飛んでいて、こんどはオレもちっちゃくなっていっしょにふわふわして遊びたいと思ったけどおれは普通のサイズのただの間抜けな男だったからただ眺めているだけだった。小屋の方が淹れてくれたオレンジの味の紅茶が甘くてとっても美味しい。地図に時間をかく。あとはもう降りるだけだ。小屋をでて少し歩いてバス停について、もうバスの来る時間になったのにバスがこなくて遅れてるなっと思ってベンチに座ってぼけっとしていたけど、実はバスが遅れているのではなくて5日も山にいたせいで曜日の感覚がずれていたから時刻表を読み間違えていて、ほんとはあと40分くらいは来ないことにまだそのときのオレは気付いていない。

にほんブログ村 アウトドアブログ 登山へ
にほんブログ村